代表的なものとしてA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎があります。
(A型肝炎) 糞便経口感染をします。すなわち、不衛生な地域で感染が多い傾向があります。 また、日本のような環境下でも、ウイルスに汚染された水や野菜、カキ等が原因で感染することがあります。 感染した場合、風邪のような症状に続いて黄疸が出ます。 医療機関を受診なさる方の大部分はこの時点になります。 血液検査では肝機能の数値(GOTやGPT)がかなりの数値に上昇していて、ほとんどの場合入院加療になります。 ただ、A型肝炎であることが確定した場合、特異的な治療があるのではなく、安静のための入院になります。 A型肝炎は感染後、強い免疫ができるので、2度罹患することはありませんし、慢性化して肝硬変などに至ることもありません。
(B型肝炎) A型肝炎と異なり、急性肝炎で終わるものの他、少数ではありますが慢性肝炎に移行するものがあります。 感染経路は、以前は予防注射における針の使い回しがありましたが(2013年現在係争中であることはよく知られています)、現在そうしたことは行われておらず、あるとすれば覚醒剤などの非合法的な注射が行われる場合です。 現在、感染の主な経路は性行為であると考えられます。 慢性B型肝炎の大部分は、母子感染によるものです。 お母さんが慢性にB型肝炎ウイルスを持っている場合、出産の際に赤ちゃんが感染を起こすことが多いのです。 赤ちゃんは、免疫機能が未完成であるため、進入してきたウイルスを『異物』と認識せず排除しません。そのためにB型肝炎ウイルスがいついてしまい、『キャリア』と言われる状態になります。 現在は、こうした出産の場合の対策も講じられており、たとえB型肝炎をお持ちの方でも安心して出産できるようになっています。 B型の慢性肝炎については、いろいろな検査でその治療方針が決定され、インターフェロンや抗ウイルス剤による治療が行われています。
(C型肝炎) ほとんどの場合慢性化し、肝硬変、そして肝がんの発生に繋がる原因になります。 感染力はA型やB型と比較して弱いのですが、一旦感染した場合に慢性化することが問題なのです(極論すれば、極希に見られるB型肝炎ウイルスによる劇症肝炎を除き、急性肝炎は完全に治るわけで、あまり恐れなくてよいのです)。 感染経路は、ほとんどの場合血液を介したもので、日常生活の中や性行為で感染することは希です(ただし、ゼロではないので注意は必要です)。 治療はインターフェロンや抗ウイルス剤が用いられます。 この数年で治療成績も飛躍的に向上し、またインターフェロンも副作用の少ないものになっています。
以上、代表的なウイルス肝炎について述べましたが、いずれにしてもまずは感染の有無を知らなければいけません。 出産なさった方や、献血をなさった方は、そうした点を間違いなくチェックされています。 一方、一般的な健診では肝機能障害の有無までは確認できても、その原因まではチェックされていません。 ですから健診などで肝機能障害の指摘を受けた方は、こうしたウイルスに関する検査や、超音波検査を是非受けて頂きたいと考えています。
2013年、慢性萎縮性胃炎におけるピロリ菌の除菌治療が保険適応になりました。 ピロリ菌がいそうな胃か、いそうもない胃かは、ある程度の経験を積んだ内視鏡医なら肉眼で判断できます。 その上で、裏付けとしてのピロリ菌の有無を調べることになります。 過去にピロリ菌の除菌治療を受けていない場合であれば、内視鏡検査をしなくても血液検査(ピロリ菌に対する抗体の有無を調べます)、もしくは息を集めて行う検査で判断することができます。 しかし、今回の保険適応に際しては、内視鏡検査がなされていて、萎縮性胃炎の所見が確認されていることが前提になっています。 これは、ピロリ菌によって発生頻度が上昇する胃癌を見落とさないために必要です。 今後は胃癌に対する健診も変わり、『ABC検診(胃がんリスク検診)』という言葉が聞かれるようになると思われます。これは以下の考えに基づいています。 ピロリ菌感染のない人から胃がんが発生することはごくまれです。また、ピロリ菌感染によって胃粘膜の萎縮が進むほど、胃がんが発生しやすくなります。胃粘膜の萎縮の程度は、胃から分泌されて消化酵素ペプシンのもとになるペプシノゲンという物質の血液中の濃度を測定することでわかり、基準値以下の人は、6〜9倍胃がんになりやすいことがわかっています。 胃がんリスク検診(ABC検診)とは、ピロリ菌感染の有無(血清ピロリ菌IgG抗体)と胃粘膜萎縮の程度(血清ペプシノゲン値)を測定し、被験者が胃がんになりやすい状態かどうかをA〜Dの4群に分類する新しい検診法です。血液による簡便な検体検査であり、特定検診(メタボ健診)などと同時に行なうこともできます。 胃がんリスク検診(ABC検診)はがんそのものを見つける検査ではなく、胃がんになる危険度がきわめて低い、ピロリ菌の感染がなく胃粘膜が健康な人たち(A群)を精密検査の対象から除外し、ピロリ菌に感染(またはかつて感染)して胃粘膜に萎縮のある人たち(B〜D群)には、胃がんの存在を確かめる精密検査(内視鏡検査等)を受けていただくものです。近年、若い方々を中心にピロリ菌に感染していないA群の割合が増えており、多くのA群の人たちが内視鏡による精密検診を受けないで済む点が大きなメリットです。